2024-05-09

<サイドメモ>「下肢の閉塞性動脈硬化症」の呼び名について

こちらの記事は、『PADとは?』の補足記事です。

我が国では、1970年代までは足の動脈の内腔が狭くなり塞がる病気(閉塞性動脈疾患)の多くは、閉塞性血栓血管炎(TAO、ThromboAngitis Obliteransの略称)でした。TAOはバージャー(Buerger)病とも呼ばれ、20〜40代の男性に多く喫煙との関連が強い病気です。原因は血管の炎症で、膝より下の足と肘より先の腕の動脈に好発します。冠動脈(心臓の動脈)や脳動脈はまず侵されないので生命に関わることは少ないですが、壊疽(虚血のため皮膚や皮下組織・筋肉などの組織が壊死した状態)のため手足の切断が必要になることがあります。
TAOに対して、我が国では、動脈硬化が原因で足の動脈が塞がる病気を閉塞性動脈硬化症(ASO、ArterioSclerosis Obliteransの略称)と呼んできました。今では、生活習慣の欧米化に伴いASOが激増しTAOはほとんどみなくなったので、足の閉塞性動脈疾患の大半はASOという状況です。

2000年に欧米の14学会がまとめた画期的なガイドラインTASC(Trans-Atlantic Inter-Society Consensus)と、2007年に日本を含む国際的な17学会がまとめた改訂版のTASC Ⅱの影響を受けて、足の閉塞性動脈硬化症のことをPAD(Peripheral Arterial Diseaseの略称)と呼ぶようになりました。しかし、「閉塞性動脈硬化症」は、「足」だけではなく稀に「腕」にも起こります。そこで、最新のガイドライン*1 では、足の閉塞性動脈硬化症をLEAD(Lower Extremity Artery Diseaseの略称)と呼ぶことを提唱しています。
一方、PADは本来の広義の意味(抹消動脈疾患)で用いることが提唱され、冠動脈と脳動脈を除く末梢動脈、つまり頸動脈・腹腔内臓器の動脈・四肢動脈などの病気の総称と定義されています*1

様々な病気で呼び名が変わることはよくあり、しばらくの間は抵抗感がありますが、大抵の場合はそのうち慣れてしまいます。しかし、PAD やLEADという用語には、どうしても馴染めません。そもそも、PAD(末梢動脈疾患)もLEAD(下肢動脈疾患)も、「足の閉塞性動脈硬化症」にぴったり当てはまる用語ではないです。「末梢動脈」は「足の動脈」だけではないし、「動脈疾患」は「閉塞性動脈硬化症」だけではありません。
このように曖昧な用語が、「足の閉塞性動脈硬化症」の呼び名としてなぜ選ばれたのか不思議です。PADの定義が、以前は「足の閉塞性動脈硬化症」だったのに、広義の「末梢動脈疾患」に切り替わったことも困惑の一因だと思います。今ではASOはほとんど使われませんが、「下肢のASO(閉塞性動脈硬化症)」と呼ぶのが一番しっくりきます。こんなことを考えているのは、私だけかも知れませんが…

*1:日本循環学会/日本血管外科学会合同ガイドライン 抹消動脈疾患ガイドライン(2022年改訂版)

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