福岡県太宰府市の丸山病院(内科・消化器内科・循環器内科・リハビリテーション科)

2022-01-24

<サイドメモ> ドア・ツー・バルーンタイム —急性心筋梗塞の治療のキーポイント!—

こちらの記事は、『虚血性心疾患:急性心筋梗塞の診断と治療』の補足記事です。

急性心筋梗塞、とくにST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)*1では、遮断されている冠動脈の血流をいかに早く再開させるかが治療の決め手になります。
STEMIの患者さんが病院に到着(door)してから、冠動脈の閉塞部位をバルーンカテールで膨らませて血流を再開させる(balloon)までの時間をドア・ツー・バルーンタイム(door-to-balloon time)といいます。ドア・ツー・バルーンタイムには、急性心筋梗塞の診断、患者さんに対する点滴などの救急処置に加えて、カテーテル治療(PCI)に必要な人員を招集することや、PCIを行う心臓カテ-テル検査室の準備など様々なプロセスが含まれています。
ドア・ツー・バルーンタイムをできるだけ短くするには、それらのプロセスを迅速かつ的確にこなす必要があります。そのためには、循環器専門医だけではなく、救急診療に関わる救急医・看護師・放射線技師・臨床工学技士・臨床検査技師さらには事務職など多種多様な職種のチームワークが不可欠であり全病院的な取り組みが必要になってきます。

国内外のガイドラインでは、ドア・ツー・バルーンタイムを90分以内にすることを推奨しています*2
ある調査研究*3では、ドア・ツー・バルーンタイムを効果的に短縮した要因として以下のような項目を挙げています。①循環器内科医が院内に常駐している②コールセンターに依頼すれば全ての必要人員が招集できる③呼び出しをかけたら20分以内に必要な人員が揃う④心臓内科医(循環器専門医)だけでなく救急医も心臓カテーテル検査室の準備を指図できる⑤患者さんの到着前から心臓カテーテル検査室の準備を始める⑥救急外来と心臓カテーテル検査室が緊密に連絡をとり合うなどです。
診断や治療に関する医学的な項目は含まれず、まさに実務的な項目ばかりでした。90分以内のドア・ツー・バルーンタイムが達成できている病院では、救急医療に関する職員の認識と医療のレベルが高いであろうことが推測できます。また、院内の人員が少ない夜間などの診療時間外も、診療時間内と同じように実施すべきことを適切に実施できていることも示唆しています。

ドア・ツー・バルーンタイムは、急性心筋梗塞の診断から治療という一連のプロセスに関連して、病院の救急医療体制の充実度を反映する指標と言えそうです。

*1:心電図で「ST上昇」を示す急性心筋梗塞のことです。「ST上昇」とは心電図のST部分が上方に偏位している所見のことで、冠動脈が完全に閉塞して心筋壊死が進行していることを強く示唆する所見です。下の図の上段はST上昇のない正常の心電図、下段はST上昇(上向きの矢印)があるST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)の心電図です。心電図波形のスパイク(QRS波)の直後からそれに続く上向きのドーム状の波形(T波)の終わりまでを「ST部分」といいます。

*2:米国のガイドラインでは、急性心筋梗塞が発症してから血流再開までの時間(onset-to-balloon time)を120分以内にすることを推奨しています。また、緊急PCIが行えない病院に患者が搬送された場合は、その病院での滞在時間(door-in to door-out time)をできるだけ短く30分以内にして、緊急PCIができる別の病院へ迅速に転送することを推奨しています。

*3:New England Journal of Medicine という米国の一流の医学雑誌に発表された調査研究です(New England Journal of Medicine 2006; 355: 2308-20)。

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