福岡県太宰府市の丸山病院(内科・消化器内科・循環器内科・リハビリテーション科)

2022-01-19

<サイドメモ> ニトログリセリンの舌下

こちらの記事は、『虚血性心疾患:冠れん縮性狭心症』の補足記事です。

冠れん縮性狭心症の発作が起こった時には、即時的な対応としてニトログリセリンの錠剤(ニトロペン®️を舌下します(舌の下に含んで自然に溶けるのを待ちます)。
患者さんには、いよいよ我慢できなくなってからではなく、舌下するのを迷うくらい軽い症状でも迷わずすぐに舌下するように説明しています。なぜなら、症状が現れるのは、心臓が何分間か虚血(酸欠状態)にさらされた後だからです。なので、たとえ軽い症状でも、症状があること自体が心配な状況といえます。
カルシウム拮抗薬などの治療薬を開始すると、開始前にみられていた強い症状は無くなり、症状が出たとしても中途半端な軽い症状になってしまいます。このような場合も、迷わずニトログリセリンを舌下することが大事です。さらに、症状がすぐにおさまってニトログリセリンの舌下が間に合わなかった場合も、舌下した方が良いと思います。なぜなら、症状が消えた後でも冠れん縮はまだ完全に解除されておらず、冠動脈は細く縮んだままと考えられるからです。
狭心症の発作が起こってニトログリセリンの舌下をした後でも、数分後に2回目の発作が起こることも少なくありません。

ニトログリセリンは、労作性狭心症の発作が起こった時にも舌下します。ニトログリセリンは、全身の静脈や動脈の筋肉(平滑筋)をゆるめて血管を拡張させる作用があります。冠れん縮性狭心症では、冠動脈壁の筋肉のけいれん収縮をゆるめて冠れん縮を解除するという大事な働きを示します。
しかし、冠動脈が拡がることによって増える血流量はわずかです。労作性狭心症に対するニトログリセリンの主な治療効果は、全身の静脈と動脈を拡張させることによって心臓の負担を軽くして、ひいては心臓の酸素必要量(酸素需要)を減らすことで心筋の酸欠状態(心筋虚血)を緩和させることだとされています。

ニトログリセリンは、全身の血管を拡げるので一時的に血圧が下がり立ちくらみが起こることがあります。立ちくらみがひどい時には、しばらく横になっていれば大丈夫です。また、脳の血管が拡がり脳の容積が増えて頭蓋骨内の脳圧が上昇して頭痛が起こることもあります。しかし、これらの副作用は高率にみられるわけではないですし、ほとんどの場合、30〜60分経つとニトログリセリンの効果が薄れて症状はおさまります。
初めてニトログリセリンを処方する時には、患者さんに症状がない普通の状態の時に舌下してみることをお勧めすることもあります。その理由は、胸痛発作という不安な状況下で、使ったことがない初めての薬を舌下するのはちょっと無理があるかも知れないと思うからです。ニトログリセリンの舌下に対する抵抗感が強い場合には、院内で看護師が付き添って舌下を試していただくこともあります。
また、「もしかしたら胸が痛くなるかも知れない」という心配がある場合には、症状が出る前にあらかじめニトログリセリンを舌下することもお勧めしています。例えば、冠れん縮性狭心症の患者さんが冬の寒い朝に外出しなければならない場合などです。

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