大動脈解離の治療
A型解離は、緊急手術が必要です
A型解離に対する外科手術は、解離の原因である内膜の亀裂部を解離した大動脈とともに切り取り人工血管に取り換える手術です。内膜の亀裂がある部位によって、人工血管に取り換える大動脈の範囲が異なります。
内膜の亀裂が上行大動脈にある場合は上行大動脈人工血管置換術(下の図)、大動脈弓部ないし胸部下行大動脈に亀裂がある場合は上行弓部人工血管置換術を行います。人工血管置換術後は、内膜の亀裂部がなくなり偽腔に血液が流入しなくなるので、解離は塞がり大動脈の拡大が阻止されることが期待されます。しかし実際には、偽腔が完全に閉塞するのは10%以下で、術後も偽腔が残り将来的に大動脈瘤になる可能性が残ります。
上行大動脈人工血管置換術のイメージです。内膜の亀裂がある上行大動脈を切り取り、人工血管に取り替えています(右図)。術後も、人工血管の抹消側の偽腔は残ったままのことが多いです。
冠動脈の閉塞を合併している場合は冠動脈バイパス術を、大動脈弁閉鎖不全がある場合は大動脈弁輪部の修復術を追加します。また、大動脈から分岐する主要な動脈が解離に巻き込まれ血流障害をきたした場合には、人工血管や自家静脈(足の静脈)を使って血行再建術を行います。大動脈から分岐する主要な動脈とは、頭に向かう腕頭動脈・左総頚動脈、腕に向かう鎖骨下動脈、脊髄を栄養する脊椎動脈、お腹の臓器を栄養する腎動脈・腹腔動脈・腸間膜動脈、足に向かう腸骨動脈・大腿動脈などです。
上行弓部人工血管置換術は取りかえる大動脈の範囲が広いので、長時間の大掛かりな手術になります。しかし近年、人工血管にバネが付いたステントグラフトを併用することが増えました(オープンステントグラフト法、下の図)。この方法を用いると、下行大動脈の手術のために胸を開く傷を追加する(前胸部中央に加えて左脇を開胸する)必要がなくなり、ステントグラフト留置により人工血管末梢側の血管吻合も不要になるので、手術時間は短縮され患者さんの身体的負担が減ります。その結果、20%前後だった手術死亡率が10%以下に改善しました。通常は、手術の時にステントグラフトを下行大動脈に留置しますが、後日改めて、心臓カテーテル検査室でステントグラフト内挿術を行うこともあります。
B型解離は、内科的治療が原則です
上行大動脈に解離がないB型解離は、 手術をせずに経過をみても死亡率は10%程度と低いので、安静にして痛みをとり血圧と心拍数を下げる内科的治療が原則です。必要があれば、鎮痛剤として麻薬も使います。内服薬や点滴の薬を使って、収縮期血圧(上の血圧)を120mmHg以下に、心拍数は毎分60以下にコントロールします。
A型・B型に関わらず、死亡は最初の2週間に集中しその後の死亡率は減少するので、発症から2週以内を急性期、その後を亜急性期として区別します(発症後3ヶ月以降を慢性期といいます)。大多数のB型解離は内科的治療だけで急性期〜亜急性期を乗り切れますが、一部の患者さんでは外科的治療が必要になります。
①大動脈破裂と考えられる場合、②激痛が持続するまたは繰り返す場合、③大動脈径が拡大する場合、④脊髄や腹部臓器・下肢などの血行障害を生じた場合には、外科的治療を行います(②と③は大動脈破裂に関連した症状と検査結果です)。B型解離の外科的治療の成績は、発症1年以内においては、外科手術よりもステントグラフト内挿術の方が優れています。
退院後も定期的な検査が必要です
A型解離もB型解離も、入院期間は2〜3週間です。A型・B型に関わらず、発症1年後以降に大動脈径が徐々に大きくなって大動脈瘤になることがあるので、退院後は定期的にCT検査を行なって大動脈の大きさを追跡します。大動脈瘤の破裂は急死の原因となるので、外科的治療のタイミングを逃さないようにしないといけません。最初の1年は1・3・6・12ヶ月後、その後は6または12ヶ月毎にCT検査を行います。大動脈径が55〜60mm以上になると破裂のリスクが高まるので、外科的治療を考えます。発症から1年以降においては、外科手術の治療成績の方がステントグラフト内挿術よりも良好です。
新たな試みとして、「発症から1年以内に、解離の原因である内膜の亀裂をステントグラフトで塞いだら、大動脈の拡大が抑えられ長期的な死亡も減った」という報告があります。大動脈が拡大する可能性が高い患者さんをうまく見定めて、発症後できるだけ早い時期にステントグラフト内挿術を行うのが良さそうですが、まだ確証はありません。どのような患者さんにどのタイミングで行うのが効果的なのかが検討されており、その結果が待たれます。
本記事中の全てのイラストは、済生会福岡総合病院 心臓血管外科 森重徳継先生の御好意により掲載させていただいています。
→社会福祉法人 恩賜財団 済生会 [大動脈解離]ページはこちら
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