福岡県太宰府市の丸山病院(内科・消化器内科・循環器内科・リハビリテーション科)

2022-10-21

<サイドメモ>心筋(または心室)リモデリング

こちらの記事は、『心不全の治療』の補足記事です。

圧力や容積など血行力学的な負荷や心筋虚血などのストレスが心臓にかかった場合に、心臓の働きの恒常性を保つために代償的に心臓の構造が変化することを心筋リモデリング(または心室リモデリング)といいます。心筋リモデリングは、急性心筋梗塞・高血圧症(高血圧性心臓病)・心臓弁膜症などでみられ、左心室の肥大や拡大など眼に見える変化だけでなく心筋細胞の肥大・変性や間質の線維化など顕微鏡レベルの変化も伴います。左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)でも、心筋リモデリングが起こります。

心筋リモデリングが生じる背景には、血行動態的な負荷や神経体液性因子が関わっています。血行動態的な負荷には、容量負荷と圧負荷があります。心臓弁膜症による容量負荷や高血圧による圧負荷のため左心室の壁に圧力がかかると、心機能を保つため心筋(心筋細胞)は代償性に肥大します。さらに容量負荷や圧負荷が持続すると、心筋は引き伸ばされて左心室は拡大します。神経体液性因子には、血管収縮作用や心筋細胞を肥大させる作用がある心筋に対して刺激的な因子と、血管拡張作用と心筋細胞の肥大を抑制する作用がある心筋保護的な因子の2つがあります。心筋に刺激的に働いて心筋リモデリングを助長する神経体液性因子の代表格は、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)と交感神経系です。HFrEF治療で最も重要なのは、活性化しているこの2つの神経体液性因子を制御することです。アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)さらにミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRB)はRAA系を抑制し、β遮断薬は交感神経系を抑制します。

心筋リモデリングがみられる場合は、予後(疾病の医学的な長期的見通し)が不良です。心筋リモデリングで生じた左心室の肥大や拡大などの構造変化は、心不全の増悪因子となり、致死的な心室性不整脈の原因となって突然死にもつながります。発生当初のリモデリングは、負荷に対して合目的的に生じた適応機転のはずですが、それがどの段階から予後を悪化させる病的なリモデリングになるのかはよくわかっていません。

一方、ACE阻害薬・ARBやβ遮断薬などの心不全治療薬を長期間飲み続けることにより神経体液性因子がコントロールされると、心筋リモデリングの進行が阻止されたり改善することが知られています。心筋リモデリングが改善すること、つまり拡大した左心室が小さくなり収縮機能が回復することをリバースリモデリング(逆リモデリング)といいます。リバースリモデリングがみられた場合は、みられない場合に比べて予後が良好です。時には、下の表の患者さんのように、左心室の大きさと収縮機能が全く正常に戻ることもあります。

表は横にスクロールします

2005年頃に私が経験したHFrEFの患者さんです。これら7名の患者さんでは、著明なリバースリモデリングにより左心室の大きさと収縮能が正常値まで回復しました。上から、治療前の左心室(左室拡張期径)が大きい順に並んでいます。
心胸郭比は心臓の大きさの指標で、胸部レントゲンの胸の横幅に対する心臓の影の幅の比率で正常は50%未満。左室拡張期径と左室駆出率は、心エコーの指標です。左室拡張期径は、左心室が一番拡がった時の内のりで正常は40〜55mm。左室駆出率は、左心室の収縮機能の指標で正常は55%以上です。
例えば、1段目の52歳の男性では、ACE阻害薬やβ遮断薬などの心不全治療薬を飲み始める前(治療前)の心胸郭比は64%でしたが、治療開始3ヶ月後(治療後)には41%まで改善。左室拡張期径は9ヶ月後に67mmから48mmまで小さくなり、左室駆出率は14%から64%にまで改善しました。

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